第8章 【夏油傑】ひとでなしの恋【R18】
「……」
ベッドのスプリングの音と共に夏油はに身体を近づけ、そっと右手を握った。
太い血管が浮き出て、指の関節が盛り上がって骨ばり、分厚く筋肉質な一回り以上も大きな手は、少しだけ乾燥している。
触れられている場所が脈を打ち熱を持ち始め、期待と高揚感に包まれるがハッと何かを思い出し夏油の手を振り払おうとするが、力を篭められてしまう。
「離して」
「これの使い方は知っているかな?」
の声を無視して、夏油は彼女の手に黒くて冷たい塊を握らせた。
「え……?」
「引き金を引くだけの状態にしてあるから、安心して」
「な、え……?どういう……」
「今から私が君にすること、少しでも嫌だと思ったらそれで私を撃ってほしい」
「なに、言って……」
言っている意味がよくわからなかった。
「どこでもいい、好きなところを撃つといい。手でも足でも頭でも、心臓でも……」
夏油の指がの手をなぞり、足に触れ、頭を撫で、心臓に突き立てられた。
服の上からでも感じるの鼓動に甘い微笑みを浮かべた。
「君に殺されるなら本望だ」
夏油はの首に手を掛けると、そのままベッドの上に押し倒し噛みつくようなキスをした。
唇に勢いよく歯が当たり、鈍い痛みが走り口の中に鉄の味が広がる。
やめて欲しいと彼の胸板を押すが、離すどころか更にキスは深くなる。
「う、……っ」
歯を食いしばって首を振るが抵抗虚しく、ぬめりを帯びた熱い舌がの口内へと侵入する。
歯列や歯茎をなぞり上顎や喉の奥を刺激され、息苦しさから涙が滲み顔が歪んだ。
お互いの息遣い、混ざり合った水音、零れる二人分の唾液。
漸く唇が離された時には、馨の意識は朦朧としていた。
濡れる唇を手の甲で拭きとる夏油はぐったりと横たわる彼女の姿を、まるで溶けたチョコレートのようにうっとりとした瞳で見つめた。
「さぁ、選んで。」