第7章 【禪院真希】花吐き病
高専に戻ると、グラウンドには1年生と2年生が体術の訓練をしていた。
「午前座学じゃないっけー⁉」
「午後になったらしい!!だから早くオマエもジャージに着替えてこい!!」
まじか。
座学だと思ったからゆっくりしていたのに、変更になったのか。
寝巻き姿でどこに行っていたんだって問い詰められそう。
なんて言い訳しようかな。
頭の中でいろんな言い訳を考えながら私は教室へと向かい、ジャージに着替える。
その途中、外から聞こえる野薔薇と悠仁の叫び声。
しごかれてんなぁってクスクス笑いながら窓の外からグラウンドを眺めた。
真希の相手は恵か。
2級術師とは言え、運動神経は真希の方が上だ。
真希に投げ飛ばされる恵は顔を歪めるが、自分の弱点を的確にアドバイスしてくれる真希に尊敬の眼差しを向けていて、心なしか二人とも笑っているようにも見える。
いとこ同士だから仲がいいんだろうけど。
ん?
いとこだっけ?
いとこおばだっけ?
わかんないけど、とりあえず恵は禪院家の人間だからかな。
真希との距離が近いように見えて仕方がない。
その距離感が、向けられる視線が、禪院家という出が、男という性別が、その何もかもが。
羨ましい。
禪院家の人間になりたい。
男になりたい。
恵に、なりたい。
そうすれば、もしかしたら真希は私の事を見てくれるような気がする。
意識してくれる可能性が上がる気がする。
気がするだけで、もしかしたらそんなことないかもしれないけど、それでも「同性」ではどれもあり得ないことだから。
出てくる言葉は全て、ない物ねだりの我儘な欲求。