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【雑多】いつかどこかで【短編集】

第6章 【石神千空】人はそれを○○と呼ぶ【R18】






降下した二人分の唾液は、飲み込めなかった唾液と合わさり厭らしく妖しく光り、彼らの唇を濡らした。
満足したように離れていく唇に、彼女はうっとりとした様子で、口許は溶けだしたチョコレートのように緩んで唾液を引き摺っている。
しかし、そんな彼女とは対照的に千空は唇を噛みしめると「こ、のバカがッ!!」と怒鳴った。
彼の大きな声に彼女は肩を揺らす。

「ふざけんなよ……、ありえねえだろこんな……。素股とはいえ、こんなマネされたら、考えちまうだろうが……。もし、もしてめぇが、こいつらじゃなくて……、別の知らねえ誰かと……っ、目の前で、あんな……。あんな風に……っ!」

顔を伏せる千空の肩を震えていた。
平静を装うとすればするほど、彼の声は潤いを増していく。

「……無理だ。無理、だろ。そんなん。は……、吐き気がした。だめだ。だめにきまってんだろ……、絶対だめだっ。誰がやるか」
「せ、んくう…くん?」
「はっ、は……っ!!」
「せんくう、くん」
「――――――……クソッ!!」

歪んでしまう表情を隠すように千空は顔を手で覆った。
その時、彼女は見てしまった、いや、見えてしまった。
眉間に皺を寄せ唇を噛みしめる千空の瞳が揺れていることに。
そして、それは彼の指の隙間を潜って頬を伝い流れる。
透明な雫は、ぽたりと落ちて彼女の口元を濡らした。
何も言えずにただ見つめることしかできない彼女に、千空はゆっくりと息を吐きだすと「嫌に、きまってんだろ。でも、」と小さく零した。
濡れる赤い瞳がまっすぐに彼女の瞳を見つめる。



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