第2章 【加茂憲紀】もしも
私の上から体を離すは「死ぬのはすぐにはできないけど」と切り出す。
すぐってことは、いつかするつもりだったのだろうか。
ゆっくりと身体を起こして制服についた雪を払う私に、は名を呼ぶ。
「心中って、昔は死ぬことだけを言っていたんじゃないんだよ」
彼女が言うには、その愛の印として、自らの髪の毛だったり、爪だったり、指を心中立てとして相手に贈ったらしい。
それが元になっているという。
「今は死ぬことが心中ってされてるんだけどね」
「じゃあ私はその誓いに何を差し出せばいい?」
「私たちはこれで十分じゃない?」
は私の小指を手に取り、自分の小指を絡ませた。
所謂、指切り。
「本当に切るわけじゃないけど、でもこれだって立派な心中立てだよ」
本当は彼女のためなら指を切って贈ったっていい。
なんならこの身を捧げても。
だけど彼女はそれを許さないだろう。
「憲紀の指が無くなったら私死んじゃう」
「君に死なれたら困るなあ」
「死ぬときは一緒だよ。だからそれまで死んじゃだめ。私と一緒に死ぬの」
「わかっている。一緒に死のう。だが、死ぬことよりも私は君と一緒に生きていたい。これからもずっと一緒に。私はそっちのほうが嬉しい」
「……うん。実は私もそっちの方が嬉しかったりする」
お互いに顔を見合わせて笑って今日何度目かのキスをした。