第2章 【加茂憲紀】もしも
「!!雪だったからよかったけど、コンクリートだったらどうするんだ。今頃私は頭をぶつけて怪我してるか下手したら死んでいるところだぞ」
心臓がひやっとしたのは秘密。
いくら地面が雪とはいえ危ないものは危ない。
「怪我したら反転術式で治してあげる」
「そう言う問題じゃ……」
に注意しているというのに、当の本人は聞いていない。
それどころか、私の言葉は彼女の行動によって掻き消された。
は私の右手を手に取り、自分の首に持って行く。
の右手は私の首に。
つまり、お互いにお互いの首に手をかけている状態。
「心中、してもいいよ」
私の上に馬乗りになる彼女の瞳は真剣だった。
真剣に私のことを見ていた。
静かな時間が流れる。
聞こえるのは、遠くから聞こえる犬の鳴き声と屋根から落ちた雪の音。
それだけ。
彼女の細い首の鼓動はゆっくりで、血が流れているのが、音や肌からひしひしと伝わり、"生"というものがどんなものか改めて感じた。
これを止めれば、この心臓の音を止めれば彼女は一生私の傍にいる。
そのくだらない考えが、ピクリと自分の指を動かした。
ほんのわずかに力を込めていくのを自分でもわかる。
無意識か故意か。
そう問われた時、私はきっと即答できない。
彼女の首を絞めようとしたその瞬間。
私の耳に明るい声が響く。
「なんてね!あはは、うっそだよ!それに神社で心中って罰当たりだから!」
彼女の声に我に返る。
あやうく本気で首を絞めそうになった。
割と、真面目に。
一生の傷と後悔を背負うギリギリの一線を私は歩こうとしていた。
小さく震える右手を、私は左手で押さえる。