第6章 【石神千空】人はそれを○○と呼ぶ【R18】
「千空くん」
クロムとカセキと共に作業をしている千空に声を掛けるが、千空は振り向くこともなく「おー」と生返事をするだけだった。
その姿にむっとしながら、「明日ね、龍水くんとお酒飲むんだけどさ」と話を切り出した。
勿論これは嘘だ。
だが、この嘘に何かしらの反応をしてくれたら少しはもやもやとした気持ちが晴れそうな気がした。
しかし、予想とは違い千空は作業の手を止めることはなかった。
「ねぇ、聞いてる?」
「あー、聞いてる。明日の夜に龍水と二人で飲みだろ」
「そ、うだよ」
「断ろうと思ったけど、行くって話だろ」
「……うん」
「酒強くねえんだからあんま飲みすぎんなよ」
「…………き、気になんないの?万が一の事があったら……とか」
「万が一も臆が一もねえだろ。……あいつのこと襲うつもりか?」
「なわけないじゃん!!」
「だったら別にいいだろうが。楽しんでこいよ」
いつもそうだ。
理屈では割り切れないような感情だってわるはずのなに、千空くんはそれを一切口にしようとしない。
自分自身が好きなことを好きなようにやっているからって、私も好きなようにやればいいだろって言って私の言う事もやる事も全部受け止めてくれる。
受け止め ると言うか、ここまでくると興味がないんじゃないかとさえ思えてくる。
目の前の科学のことばかりに夢中になって、私にも夢中になってほしいっていう思いに気が付かないで。
千空くんのばあああああああかっ!!
二人のやりとりを間近で見ていたクロムとカセキは今にも泣きだしそうな彼女を見てお互いに顔を見合わせる。
ぐっと唇を噛んで泣くのを堪える彼女は、息をゆっくりと吐きだすと、
「もういい。作業に戻る。ごめんね」
踵を返して去っていった。
遠のく背中を見つめていたカセキは、眉間に皺を寄せ難しい顔をしている千空に向き直り「素直に言えばよかったじゃろ。強がらずに」と零した。