第5章 【山口忠】雨音に
『今日は一日中晴れです』
「今日は晴れ」
天気予報のお姉さんが笑顔でそう言った。
傘は今日必要ない。
晴れた空を眺めて。
『今日は夕方から雨が降るでしょう』
「夕方から雨」
部活中のランニング、鼻を掠める雨の匂い。
一雨きそうな天気。
傘は持ってきている。
雨が降ろうと晴れだろうと、毎日天気予報を見ると少しだけドキドキした。
『今日は午前中は雨が降り、午後から晴れるでしょう』
「午前は雨、午後は晴れ」
天気予報通り、午前中は雨が降った。
お昼頃になると雨は止んで、そして空に虹が浮かんだ。
七つの光が目に焼き付いて。
雨が嫌いじゃないと言うなら虹はどうだろうか。
授業が終わったら聞いてみようかな。
聞き返されたらなんて答えよう。
私も虹は好きだよって答えよう。
「山口君、お疲れ様」
その日、部活が終わってたまたま玄関先で一緒になって声をかけた。
「さんお疲れ様」
にこって笑う彼が眩しい。
今日は雨空なのに。
「あのね、私、山口君のおかげで天気予報みるようになったよ」
「え?うん、そっか」
「だから最近、雨に濡れない」
「そうなんだ!雨に濡れないならよかった。風邪引いちゃうんもんね」
眉毛を八の字にしてくしゃって笑う彼の顔が泣きたくなるほど胸を締め付けてくる。