第5章 【山口忠】雨音に
「でも俺達は雨が降ろうと体育館だからいいけど、陸上部は大変だよね。外で走りたいでしょ」
「……よく知ってたね。私が陸上部だって」
「そりゃ雨が降ったらいつもギャラリー走ってるからわかるよ」
見ていたのか。
私の走っている姿。
嬉しい。
「外で本当は走りたいけど、でも中でも走れないわけじゃないから。練習ができないわけじゃないから雨が降ってても別にって感じで。でも、みんなは嫌だって言ってる。雨は嫌いだって。……山口君は、雨、嫌い?」
山口君は少し黙って、ギャラリーにある窓から外を眺めた。
「雨は別に嫌いじゃない」
そう言った。
雨、嫌いな人が多いと思っていたから、その返答は意外で少し驚いた。
山口君を見ると、外を眺めるその瞳が印象的で、窓の向こう側、晴れた空を見ているはずなのにまるで違う景色を見ているような、彼の姿に目を奪われた。
雨は好きでも嫌いでもない。
部活ができなくなるわけじゃな気から。
「私も、雨、嫌いじゃない」
山口君が見ている同じ風景を見たくて、私もギャラリーの窓から外を眺める。
真っ青な空と白い雲が瞳に飛び込んできた。
眩しくて少しだけ目を細めた。