第5章 【山口忠】雨音に
山口君、山口君。
私、山口君に話したいことがたくさんあるよ。
全部全部聞いてほしいって思うのは我儘ですか、迷惑ですか。
その日は、土砂降りの雨で部活はなくなった。
「雨すっごいねー!!」
「傘の意味ないかも」
「何?何言ってるかわかんない!!」
雨の音が大きすぎて大声で話さないと何を言っているのか聞こえない。
体育館からは光が漏れていて山口君は今日もまた部活を頑張っている。
ぱしゃんと水たまりを蹴った。
山口君。
いますっごい雨が降ってるよ。
この音、聴こえていますか。
こんな土砂降りでも雨は好きですか。
……好き?
違う。
嫌いじゃない、か。
雨は好きでも嫌いでもない。
部活ができなくなるわけじゃないから。
……嫌いじゃない?
嫌いじゃないって、なんだろう。
「山口君」
雨が傘を叩く。
雨音が大きくて声を大きく出さないと聞こえない。
あの日、山口君が傘を貸してくれたあの日からきっと私は
「好きです」
雨音に消える。