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【雑多】いつかどこかで【短編集】

第5章 【山口忠】雨音に






雨は部活が終わる頃には止んでいた。
良かった。
今日も傘を持ってきていなかったから。
地面にできた水たまりを踏まないようによけながら家へと帰った。

それから数日は、雨とまではいかないけど曇りが続いて外での練習が続いた。
やっぱり外で思い切り走れるのは気持ちがいい。
風を切って走れるこの感覚が、開放感がたまらなく大好きだ。
大好きなのに、ここ最近は少し寂しさを感じてる。
体育館から聞こえるバレーの音がこんなにも近くて遠く感じるなんて思わなかった。
脳裏には彼の練習する姿が過って、胸が痛くなった。
あの日から私はずっとおかしい。

そんなある日の放課後。

授業が終わって部活に行こうとしたら同じクラスで同じ陸上部の友達が私の所に来た。

「今日雨降ってるし、体育館定期点検で使えないこと忘れてないよね」
「え、そうなの?」
「やっぱり忘れてたのか。今日部活ないからどこかに行かない?」
「……いや、帰る」
「そう。……ちなみにあんた今日傘持ってきてる?」
「………」

外は土砂降りの雨だった。
家まで走って約10分。
土砂降りだけど、なんとかなるかもしれない。
被害を最小限にするため持っていたタオルを頭に巻く。
気合を入れ直して私は地面を蹴った。

走るたびに水しぶきが跳ね、靴の中に浸透し、靴下を濡らして足先も濡らした。
全身を濡らし、私はただ走った。
視界は悪い上に濡れた服が肌に張り付く感覚も気持ち悪いけど、雨に濡れながら走るのも悪くないと思った。
余計なこと考えなくて済むから。

「今朝雨降るから傘持って行けって言ったでしょ!!」
「忘れてた」
「何秒で忘れるのアンタは」

家に帰って濡れた服を脱いでいたら、お母さんに見つかってしまった。
びしょ濡れの私を見て悲鳴を上げて、こっぴどく怒られた。
そして、「風邪引くからお風呂に入りなさい」と、優しく笑って、何故だか泣き出してしまいそうになったから、急いでお風呂場へと向かった。




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