第5章 【山口忠】雨音に
ダッシュが終わってゆっくりウォーキングをしながら外を見れば雨はまだ降っている。
帰るまでには止んでほしい。
そんな私の想いを無視して雨は部活が終わってもずっと振り続けていた。
傘、持ってきてない。
雨がやむまで雨宿りをしようか。
いつ止むか、わからないけど。
「傘は?」
玄関で立ち尽くす私に声をかけるチームメイト。
「忘れた」
「まじ?どうやって帰るの?」
「走って帰る」
「嘘だろ?風邪ひくじゃん。うちの傘に入ってきなよ」
「いいよ。あんたの家、逆じゃん」
チームメイトには悪いけど、そこまでして傘に入れてもらう必要はない。
ここから家までは走って約10分。
練習じゃこの何倍も走ってる。
そう考えれば平気だ。
出来るだけ被害を最小限にしようと使用済みタオルを頭に巻く。
そして走り出そうとしたその時、
「さん、俺の傘使いなよ」
後ろから声をかけられた。
振り向くとそこにはニコニコと人の良い笑みを浮かべた山口君とめんどくさそうな顔をしている月島君がいた。
二人とも同じクラスだけど話したことなんてほとんどなくて、なのにそんな人間に傘を貸してくれるなんてこの人はとんだお人好しだ。
「借りて、いいの?」
「うん。俺とツッキー帰り道同じだし」
「あり、がと」
山口君はバイバイって手を振って月島君と一緒に帰って行った。
私も手を振りかえしたあと、ゆっくりと傘を広げる。
この日私は雨に濡れることなく家に帰ることができた。