第2章 【加茂憲紀】もしも
キスはほんの数秒。
ごくあっさりとした口付けだったが、狂おしいほどの愛情を感じた。
唇が離れるとは、
「そしたら私が憲紀の代わりに息をする。憲紀は私が吐き出す少しだけ酸素濃度が下がった息だけを吸えばいい。そうやって生きていけばいいのよ」
そう言って彼女は再び私にキスをしてきた。
さきほどより長い長いキス。
互いに食べ合うみたいに口を動かし、互いの舌を絡めた。
その熱に酔いしれ、唇が離れる頃にはお互いに息が上がっていた。
なぜ私がこんなにも不安になるのか、少しだけわかったような気がする。
と離れたくないんだ。
何時死んでもおかしくなく、つい最近の夏油傑の百鬼夜行を目の当たりにし、死をリアルに感じたんだ。
別れたくない、離れたくない、死にたくない。
彼女の付き合うまではなかった感情に、初めて抱く感情に、自分の揺れ動く感情をうまくコントロールできずにいるんだ。
何時かは死んでいくとはわかっている。
分かっているけど。
できれば、とずっと一緒にいたい。
傍で笑っていたい、笑っていてほしい。
私の隣で。
死ぬときは私の隣で。
私より長く生きていてほしい。
そんな守られるかどうかも分からない約束を、無理難題な約束を、私は彼女に押しつけたくても押しつけることができない。
彼女にとってそれが呪いになってしまうのが怖い。
矛盾しているとわかっているからこそ、自分のこの女々しさと優柔不断さが嫌になる。