第2章 【加茂憲紀】もしも
そんな不安を抱く私の手を彼女は強く握る。
何でもないかのように淡々とした声が私の耳に届いた。
「いつも通り変わらない日常を過ごすと思う。朝起きて憲紀
と一緒に教室に行って、任務して、ご飯食べて、一緒に帰って、キスをして、最後の一瞬まで憲紀と一緒にいる」
静かな空間に、彼女の声は大きく響く。
「大丈夫だよ」と子供をあやす母親のような、そんな感じがした。
一度、「もしもの時」を考えてしまうとその思考は止まらない。
どんどん、「もしもの時」を考えてしまう。
だから私も意地悪くというか、に「もしもの時」を話す。
自分の中にある不安を彼女に受け止めてほしいのか、それともただ単に聞いてほしいだけなのか、よくわからない。
わからないけど、私はまた「もしもの時」の話を彼女にする。
「もし私が、息をすることに疲れたらどうする?」
彼女はほんの一瞬考えて立ち止まる。
私も立ち止まってのことを見る。
は俺見つめる。
私もを見つめる。
真っ黒い瞳と瞳がぶつかる。
静寂が私達を包み込んだ。
だがそれは一瞬のこと。
繋いでいた手は離され、襟を掴まれる。
グイッと引っ張られたかと思うと、驚くほど柔らかな唇の感触がした。
目の前に広がるの顔は伏せられ、長い睫毛が揺れている。