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【雑多】いつかどこかで【短編集】

第4章 【五条悟】嫌よ嫌よも。【R18】






淡い想いなどではない。
恋などという不確かなものでもないだなんて、嘘だ。

好きだ。好きなんだ。
こんなにも侮辱されて、ものとして扱われて、どうしようもないほどに嫌われていても。
五条が。五条悟が。
五条悟だからずっと期待を捨てきれなくて、今こんなにも、傷ついている。
余りにも、惨めだ。

「……ぅッ」

泣きたくなんかないのに、涙があふれて止まらない。
かろうじて残る服の袖に、染み込んでゆく。
恋は、ここまで人をおかしくさせるのか。

彼が好きだと認めてしまえば、苦しくなる。
好いて貰えないことに耐えられなくなる。
だから、自分自身に嘘をついていた。
こんな酷い男のどこに好きになる要素があるのか、ありえないと。
過去に憧れはしたがそれだけだと言い聞かせて。
優しくされたいのも、いつか髪を褒めて欲しいだなんて考えるのも、過去の憧憬に縋っているだけだなんて。
私はなんて愚かなんだろう。
下らない恋情に振り回される、女の性である自分が、憎い。
動くこともできずに嗚咽を漏らしていれば、五条の手が止まった。
それにすら気が付かず唇を震わしていると、ふいに。


ぽたりと。


唇に感じた冷たいもの。
それは一度だけではなく、二度、三度と、ぽたぽたと雨のように落ちてきた。
断続的に、唇に、頬に、首筋にかかる水滴。
は眉をひそめた。
初めは、五条の汗かと思った。
しかし、それにしては何か不自然のような気が、する。

「……」

小さく呼ばれた名前に、の心臓が跳ねた。
五条に名前を呼ばれたことなんて、初めてだ。
しかも、その小さな掠れ声は、先程までの冷たい色のないものではないように聞こえた。
それは、今にも消えそうなほど微かなもののような気がして。
そろりと、腕をどかす。
途端に目元にも落ちてくる、水。
ぽたぽたと空を切る、雫。
そこでようやくは、五条がその蒼色の瞳から、涙を零していることに気が付いた。




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