第4章 【五条悟】嫌よ嫌よも。【R18】
初耳だった。
なんてくだらない。
そう思いつつも、なんて憐れで可愛らしく、健気で愛おしいのだろう。
そこで、ふと脳裏を掠めたものがあった。
の解かれた、流れるような黒髪。
昨日見かけた姿ではない。
そうだ、あれは目の前だ。
五条の目の前で、が髪を揺らしながら歩いていた。
それはいつのことだったのだろうか。
確かその時初めて、の髪の美しさに目を奪われたのだ。
「五条は覚えていないかもしれないけど、がいっつもしてる髪ゴム、アンタから貰ったものなのよ」
「―――は?」
聞き間違いかと思って、五条は素っ頓狂な声を出してしまった。
俺から貰ったもの?
なんだよ、それ。
「去年の交流会、あの子髪ゴム無くしたみたいなのよ。その時アンタがポケットから髪ゴムをくれたんだって前に話していたわ」
その言葉に。
先程よりも鮮明に、当時の記憶が甦ってきた。
流れる黒髪、その髪の毛が揺れているのが美しくて、風に揺れてどこかへ飛ばされてしまうんじゃないかって馬鹿みたいな妄想をした。
飛ばされないように、どこかへ消えてしまわないように繋ぎとめて置きたくて。
たまたまポケットに入っていた価値なんて一つもないただの青いゴムを、渡した。
「その時からよ、が男になりたいなんて言わなくなったの。髪の毛だって時間をかけてお手入れして」
『みっともねぇな。せっかく長い髪なんだから、ちゃんとまとめておけよ』
"綺麗な髪なんだから"
本音を口にすることができず、その代わりにぶっきらぼうに小さな手のひらに乗せてしまったそれ。
そうだ、あの時。
俺は、に。
「……ッ」
五条は口を押えた。
こんなにも爽やかな空の下で、とてつもない吐き気に見舞われた。
、オマエは。
「俺は……救いようのない馬鹿だ」
オマエは、どんな気持ちであの髪ゴムを手に取って、毎朝髪を結んでいたんだ。