第4章 【五条悟】嫌よ嫌よも。【R18】
「来い」
静かに告げた男が、の腕をまた痛いほどに掴み上げる。
成す術もなく、子供のように容赦なく引きずられ、すり減るような鈍い音を靴底が奏でた。
「や、やだ!離して!」
「うるせえ、黙れ」
否定の言葉も小さくなる。
怒鳴り散らしたこともあってか、喉がかさかさに乾いていた。
振りほどこうにも、力が強く、長い足にずんずんと歩かれ転ぶように歩くことで精一杯だ。
「先輩ッ」
それでもなんとか抜け出そうと腕を引っ張れば、肩の間接を締め上げるようにねじりあげられ、本当の悲鳴が漏れた。
「いっ……、」
「聞こえなかったか?」
冷たい、感情の無い声に、背筋が冷えた。
「うるせえ、黙れっつったんだよ」
いつもの嘲笑とも、先ほどの子供のような癇癪ともまた違う。
何か得体のしれない、静かで、重苦しいもの。
怒り、なんていう簡単なものではない。
それも、尋常じゃないほどに。
逆らってはいけない。
本能が、叫ぶ。
「っ!」
視界のすみで、こちらに近寄ろうとする川崎くんが見えた。
もう一度言おう。
川崎くんは正義感の強い少年だ。
それは仲のいいが一番よく知っている。
だからこそ。
「大丈夫」
川崎くんの足が止まった。
「何も心配しなくていいよ、ありがとう!」
この状態の五条に、術師でもない一般人の川崎くんが関わったら、どうなってしまうのかわからない。
それに、五条はどうやら川崎くんにいい感情を抱いてはいないらしい。
ですら、恐ろしいと感じるのだ。
こんな男に、川崎くんを関わらせるわけにはいかない。
の焦った様子が伝わったのか。
引きずられながら声を張り上げる馨に、川崎くんは一瞬の躊躇の後、追いかける足を止めて彼ら2人の後ろ姿を見つめた。