第4章 【五条悟】嫌よ嫌よも。【R18】
だけど。
もう撫でられたいなんて、優しくされたいなんて思わない。
あるのは、どうしようもない哀しみだけだ。
「触らないで!」
体に触れられる前にその手を叩き落とす。
鼻息を荒くし、肩で大きく呼吸を繰り返す。
「虫唾が走るんです、先輩に触られると。……気持ち、悪い、です……っ」
びしりと表情が固まる。
後悔したのは一瞬だ。
今まで見たことのない五条の顔に、今まで溜めこんできたものが一気に流れ出す。
「先輩の声も、もう聞きたくない。顔も、何もかも……全部全部もう見たくありません!先輩の存在が目障りなんです!それくらい、気づけ!」
今まで散々言われてきた言葉を口に乗せた。
止まらない、止まれない、止める術が見つからない。
「先輩なんて、五条先輩なんて―――大嫌いだ!」
最後の最後に、思いの丈を叫んだ瞬間。
先程よりも強い力で、両肩を捕まれた。
「っ……」
「―――嫌い?」
冷水を浴びたように、血が上っていた頭が冴えた。
落ちてきた血を這うような声に、顔を上げる。
そこには、今までみたことがないほど、能面のような顔をした五条がいた。
互いの吐息が頬にかかるほど間近に。
「……ッ」
体が凍りつく。
氷のように冷たい瞳が、の視界一杯に広がる。
怖いと、思った。
今までは五条に色々なことをされてきたが、諦めや苦痛や屈辱、哀しみ、そして今のような怒りを感じたことはあれど、恐怖を感じたことは初めて男に犯された時以外なかった。
だが今は。
目が、逸らせない。
底冷えしそうな、悪寒が走りそうな、昏い瞳に見下されて、喉が鳴った。
唇が震えて歯がガチガチと音を立てる。