第3章 治療【宇髄天元】
冗談じゃねぇ。
俺が居ねぇ隙にとんでもねぇ虫が飛び込んできてやがった。
沸々とドス黒い感情が腹の底から湧き出てくるのが分かる。
「今…、毎回つったか?それ初耳なんだけど?…なに無防備に他の男の手当てなんてしてんの?」
「え?なんで、って…そりゃ怪我したら治療するじゃない。他の子達だってそうだし…、宇髄さんこそ何言ってる…の?え、…というか、な、何か怒ってる…?」
振り向いた円華と目が合うと、段々と青ざめた顔が引き攣っていく。
派手に面白くねぇからな。多分めちゃくちゃ嫌な顔してんぞ、俺。
別に円華は間違った事はひとつも言ってねぇ。
言ってはいねぇが…
「…自傷野郎なんざ放っとけ」
「む、無茶な事言わないでよ…。柱だよ?しかもあの風柱様だよ?」
「不死川には傷薬と包帯だけ渡しときゃいーんだよ。第一今まではそうしてんだからよ」
不死川が蝶屋敷に通うなんて話、聞いたことがねぇ。
無防備で危機感ねぇから他の野郎が突き入る隙ができんだ。
クソ、油断した。
まさかあの不死川が円華に気を持つとは想定外にも程があんだろ。
「不死川さんに少しでも失礼しちゃったら、私なんて一捻りされちゃうじゃん!」
「誰がんなことするかァ、阿呆が」
聞き慣れた声は見なくても誰だか分かる。
横目に視線をやると、部屋の入口で仁王立ちしていたのは、たった今話題に上がっていた不死川実弥だった。
…気配消してやがったな?コイツ。
円華なんか、今のを聞かれた事で目ん玉かっぴろげて、俺にしがみつく手が震えてやがる。
「い、いつからそこに、っ、い、いいらっしゃったのでありますでしょうか!?」
「…ビビりすぎだろ。日本語おかしい事になってんぞ」
…さっきも同じ事言ったな。何回突っ込ませる気だ、こいつ。
自分が置かれている状況を思い出したのか、慌てて離れようとする円華を見せつけるように抱き込んだ。
「俺がここにいる理由なんざ、一つしかねぇだろォがァ」
「で、ですよね!?今準備してきますから待っててくださいぃ!」
だが、ここぞとばかりに馬鹿力を発揮した円華が俺の腕を振り払って部屋から飛び出して行った。