第4章 不思議な二人生活
「これさ、ホラーゲームなんだけどなかなかクリア出来なくて」
そういえば。このキヨさん、その机のパソコンで何しているのかと思えば、ゲームをしているみたいだった。思わず覗き込んでみると、ドット絵世界のゲームで、キヨさんはキーボードを上手に使いこなして操作してる。画面でしか分からなかったゲーム実況が今目の前で見られることに、私はちょっとドキドキした。
ドンドンドンドン!
その時だった。扉を叩くような音がして私は思わずキヨさんに飛びついてしまった。けれどもキヨさんはあまり動揺してはいなく、大丈夫だと私の背中をさすってくれた。
「ゲームの音だよ、大丈夫大丈夫」
とキヨさんに言われてよくパソコン画面を見ていると、主人公がロッカーに逃げ込んだ目の前で、鬼が激しく扉を叩いているシーンが流れていた。私は安心して、キヨさんから離れる。
「いやぁでも、ユメ子ちゃんにこんなに懐かれてたとはなぁ。だってさ、つい最近でしょ? こっちに引っ越してきたの」
とキヨさんに言われるが、そもそも隣人がキヨさん宅だったという記憶がないので私は曖昧な返事をした。しかしキヨさんは、構わず言葉を続けた。
「最初は、挨拶するだけだったじゃん? でも二日前はさ、ユメ子ちゃんから挨拶してくれて、俺嬉しかったんだよなぁ」
とキヨさんは淀みなく言うところ嘘ではなさそうだが、私はキヨさんに挨拶した記憶も、隣人さんに会った記憶もないので答えに戸惑った。
けれどもそれもあまり気にしなかったみたいで、やーめたと言ってキヨさんはゲームを閉じてしまった。怖いけどちょっと見ていたかった私は、もう終わりなの? と訊いてみるとこう返された。
「だってさ、ユメ子ちゃんにそんなに怖がられたら出来ないじゃん」とキヨさんは言う。「ユメ子ちゃんの怖いことはしたくないからね」
この人、こんなに優しいんだ、と私は失礼ながらそう思った。確かにキヨさんは画面の中では変なこと言ったり面白いことばかり言ってたけど、可哀想な主人公に優しくしたり、小さな生き物にだって優しくする一場面は見てはいた。
「そろそろ昼飯にするか。何食べる? つってもカップラーメンしか出来ないけど」
何でも良かった。親よりこんなに親しくなれる人がそばにいてくれるなら。
もう、怖い夢も見なくなるかな……。