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貴方とかくれんぼ[ky]

第29章 パパ


 数時間後、私はお母さんに言われて静かな喫茶店にいた。お母さんは外で買い物をしてくるからと、私一人だけ椅子に座って待っていた。
 カランカランと扉が開く音がして、私は顔を上げた。そこには、お父さんが立っていた。
「ごめん、ユメ子……待ったか?」
「ううん、さっき来たばかり」
 お母さんがさっき私の部屋で話してくれたのは、お父さんの話だった。
 お父さんとお母さんは、離婚した。ずっと喧嘩ばかりしていたから、一緒にいられないって言って、お母さんは私を連れて知らないところに引っ越した。
 でも、私はずっとどうしてなのって心のどこかでは思っていた。お父さんは優しかった。お父さんと、離れたくなかった。離婚なんてして欲しくなかった。
 お母さんは、お父さんともう一度連絡を取って、私と話す時間を作ろうとあちこち出掛けていたみたいだった。だからお母さんは数日間家にいなかったと、私にそう話してくれた。
 でも、私はお母さんから何も聞かなかった。お父さんと、離婚した理由を。
「何か、頼んだか?」
「ううん」
「何頼む? ここから選んでいいぞ」
「……ココア」
 喉が渇くのは、飲み物を頼んでいなかったからかな。
「ココアか、ユメ子、好きな飲み物だもんなぁ」
「今は飲んでない」
「そうなのか?」
 だって、お父さんがよく作ってくれてたから。
「パ……お父さん、は……」
「パパって呼んでもいいのに」
「今は、私のパパじゃないんでしょ……?」
 今でも覚えてる。あの時のパパの顔。大きな目をして、私をじっと見つめて。そして、小さくため息をついて。
「……確かにな。パパは今、ママと離婚して一緒に暮らすことは出来なくなった」だけどパパは、こうも言った。「だけど、ユメ子のパパであることは変わらないよ。……ユメ子が、パパをパパにしてくれるなら」
 そんな言い方、ズルいよ。
「じゃあどうして、パパはママと離婚したの……?」
 涙が溢れてしまった。こんな私、絶対悪い子だ。だから、パパとママは離婚しちゃったの?
 喉まで出かかったけど、それだけは言えなかった。
「ごめんな、ユメ子。……ママは、パパが浮気したと思っているんだ」
「……え?」
 パパの目を見る。パパは下を見つめていた。
「でも、ユメ子だけには分かって欲しい。パパは、絶対浮気なんかしていない」
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