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貴方とかくれんぼ[ky]

第27章 深層


 きっかけは、なんだったんだろう。やっぱ先生の、食べ物を残しちゃダメですよ、とかだったかな。
 分かっているけれど、食べたくないものは食べられなかった。トイレで吐いたらなんか臭い。あの子がさって誰かが噂してるのも、自分のことかななんて思ったら、学校の前で、立ち止まっていて。
 がやがやしていてうるさい学校が、とても耳障りだった。
「じゃあ、あの化け物は?」
 キヨさんは目の前の化け物を指した。キヨさんよりも背の高い化け物。横にも随分大きい。私は、その化け物に近付いた。
「ユメ子ちゃん、近付いて大丈夫なのか?」
 とキヨさんは心配してくれたけど大丈夫。ここにいる化け物は……。
 私が手を差し伸ばすと、目の前の化け物が刃物を落として手を出した。手と手が重なった瞬間、それは赤い何かではなくて、人間らしい女の子に変わって、私はその子と手を繋いで並んだ。
「この子は、私なの」
「……え」
 びっくりしたのも無理はないと思う。私も、今でも信じられなかった。だけど、箒が、教えてくれたから。
 私の隣にいる私は、俯いたままボーッとしていた。私はずっと、イライラしている感情を抑え込んできた。悲しくないって嘘をついてきた。大丈夫って何度も言い聞かせてきた。だから、この子が生まれてしまった。
「この子が、私の化け物をずっと持っていてくれてたの」
 だから、暴走してしまった。夢の中で赤い化け物に変化して。
「そうだったのか……」キヨさんが、私と私の前までやって来て、二人の頭をぽんぽんとしてくれた。「頑張ったんだな、ユメ子ちゃん」
「うん……!」
 キヨさんに褒めてもらったことが嬉しくて出来るだけ元気に返事をしたら、思ってもいなかった反応があった。
「ユメ子ちゃん、笑った顔可愛いな」
「え」
「会ってからずっと、笑わなかったからさ、最初は緊張しているのかと思ってたけど……」キヨさんは話し続ける。「ずっと頑張っていたんだもんな。偉かったな」
「ううん。キヨさんがいたから、頑張れたんだよ」
 それは、本当の気持ちだ。
 だけどキヨさんは大笑いして。
「俺は化け物に襲われただけだけどな」
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