第26章 勇気を
「ユメ子ちゃん?!」
どういう状況なのか、キヨさんは床に仰向けに倒れたまま、赤い化け物に今まさに襲われようとしていた。口の大きな赤い化け物。あの時見た化け物だと瞬時に分かった。
「キヨさんから離れて!」
私は精一杯の力で赤い化け物に体当たりしてみたがビクともしなかった。それどころか腕一本で振り払われて、キヨさんが危ない状況は変わらない。その時、カラリと後ろで何かが落ちた。
箒だ。
いつの間にこんなところに、と思ったが、今は手段を選んでいられなかった。使えるものならなんだって使おう。私は箒を振り上げた。
「キヨさんから離れて!!」
ドンッと、鈍い感覚がした。
化け物は呆気なく倒れた。一度だけ箒に叩かれた化け物は、まるでスローモーションがかかったようにゆっくりと、そしてバタリと大きく傾いて倒れて行った。
「え……」
まず疑問に浮かんだのは、なぜ倒れたの? だった。私よりも何倍もの大きさがある化け物は、背の高いキヨさんを覆うくらいあった。それがたった一本の一度だけの攻撃で倒れ、化け物は、もう二度と動かなかった。
「やった、のか……?」
キヨさんは化け物の腕から這い上がって立ち上がる。何度見ても変な化け物だ。口しかない赤い化け物。