第21章 聞こえる
「ここで待っててな。すぐ戻る」
「えっ」
引き留めようと手を伸ばすより早く、キヨさんはさっさと立ち上がって私が隠れているところが分かりづらくなるように椅子を押した。私は仕方なく勉強机の下でキヨさんの行方を見守ったが、どうやら奥のクローゼットに隠れたみたいだ。さっきキヨさんが出てきたクローゼットだ。
でもあのクローゼットは、横に大きな穴があったはず……と思っていた次の瞬間、バタン! と大きな音がして私は身を縮めた。キヨさん、見つかりませんようにと祈りながら椅子の隙間を覗いていると、間もなくあの赤い影が見えた。ペタペタという足音が余計恐怖心を掻き立てる。
赤い影はしばらくウロウロした後、あの両耳の大きい化け物に近付いて行った。私のいる目の前だ。私は息を殺した。
赤い影は両耳の化け物と、会話しているみたいに立ち尽くしていた。でも、声は聞こえないのに会話しているみたいに聞こえるなんて不思議だ……と思っていたのも束の間、私を隠していた椅子が乱暴に倒されてびっくりした。
私は後退したが勉強机の下はそんなに広くはない。化け物たちに私の隠れている場所がバレたの……? とずっと心臓がうるさいまま声も出せずにいると、赤い影が身を屈めてこちらと目が合った……!
「ひっ……」
思わず出してしまった小さな叫び。目の前にいる赤い化け物は人のような形をしながら、目と鼻がなかった。ただ一つ、大きく開いた口だけがあまりにも怖くて、私はそこから動けなかった──。
「おらぁあああああああ!!!!」
そこに、キヨさんの大声が飛び込んだ。キヨさんはいつの間にかクローゼットから飛び出して赤い化け物の後ろからしがみついていた。
「キ、キヨさ……」
私が呼び掛けた時にはキヨさんは赤い化け物を押し倒してもう一体の化け物へぶつけていた。化け物がよろけている内に、キヨさんが私に向かって手を差し伸ばしてくれた。
「さ、ユメ子ちゃん、こっから逃げるぞ!」
「う、うん……!」
私はキヨさんの手を取った。腰を抜かして動けなかったけど、キヨさんにぐいっと引っ張られてちゃんと立ち上がることが出来た。私はキヨさんに引かれるまま、部屋の外へ出ようとした。
ダンダンダン!
恐怖の音が背後から響いた……。