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貴方とかくれんぼ[ky]

第19章 隣の家


 今日もお母さんはいなかった。やっぱお仕事で忙しいのかな、とか色々考えたけど、私に何も言わないでずっと留守なのも寂しかった。キヨさんはずっと優しくしてくれるけど、それでも、時々不安になってしまう。
 このまま、お母さんも帰って来なくなるのかな……。
「あれ、俺の住んでる家な」
「え」
 なんの話をしていたのか、唐突にキヨさんが窓から見える隣の家を指した。
 そこには、新しい一軒家が建っていた。こんな家、隣にあったんだっけと思っていると、キヨさんが話し続けた。
「なんかあったら、俺ん家に来いよ? 大体家にいるから」
 その言葉は、なんだか胸がチクリとした。
「キヨさん、もう帰るの……?」
 私の質問に、キヨさんは激しく手を振った。
「いやいや、そういうことじゃないんだけどね? お母さん帰って来たら、俺は自分の家に帰るから、それで、な? なんか困ったことあってもなくても俺ん家来ていいってこと」
「あ、そういうことなんだ……」
「そーそー、そゆこと」と言ってキヨさんは私から視線を逸らす。「それより何食べる? またなんか頼もうか」
 そういえばまだ朝ごはんを食べていない。なのにさっきなんの話をしていたか私は本当に覚えていなかった。私はキヨさんの方へ顔を上げた。
「……?」
 キヨさんは口を動かして何か言っているみたいだった。なのに何を言っているのか聞こえない。
 え、聞こえない……? 私、覚えていないんじゃなくて、聞こえていなかったの?
「どうした、ユメ子ちゃん?」
 キヨさんも、私が変なことには気付いたみたいだった。時々聞こえるキヨさんの声に安心する。私は大丈夫と言いたかったけど、今度は自分の声が聞こえなくて、ちゃんと喋っているのか分からなかった。
「とりあえず横に……」
 途切れ途切れ聞こえてくるキヨさんの声で、私は部屋に連れて行こうとしているのだと分かった。でも、その前に何か食べたいからとキヨさんの手を離してキッチンに向かう。かろうじて、これだけは言えたみたいだ。
「お粥作る」
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