第17章 食べる
よく見ると赤い化け物は、あの綺麗過ぎるクローゼットの中から出てきていた。床に散らばった赤い液体を気にすることなく踏みつけていくから、足跡で分かったのだ。
そして、赤い化け物は部屋の奥に立って何かを見ていた。ここからじゃよく見えない……と思っていたのも束の間、赤い化け物がもう一つのクローゼットを食べたのだ!
「……!」
私は声が出そうになって慌てて自分の口を抑えた。真横ではキヨさんが小さく頷いている。ここはなんとか、静かにしてやり過ごさなくては。
間もなく、化け物がバリボリとクローゼットを咀嚼する音が聞こえた。私は怖くて今度は両耳を覆った。
バギ!
次には更に大きな音がして、両耳を抑えていても聞こえる程だった。少しだけ開けた目から、化け物がテーブルを食べているのが見えた。
……。
それからどれくらい時間が経ったのか分からない。一瞬だったかもしれないし、何日も経ったかもしれない。
「行ったみたいだ」
と言ったキヨさんの言葉で目を開けて、勉強机の下から出た。化け物はいなくなっていたが、クローゼットとテーブルがなくなっていた。アロマポットとおにぎりも、全て。
「前見た奴と見た目違ったよな?」
キヨさんが、化け物に食べられてなくなった家具の方を見ながらそう言った。私はうんともすんとも言えなかった。怖くて、化け物をよく見ていなかったから。
でも、そういえば、あの化け物、刃物みたいなものは持っていなかったかも。
「さっきのは……包丁みたいなの、持ってなかった」
「ああ、確かに! そうだよなぁ」とキヨさんは何か考える素振りを見せた。「なんなんだろなぁ、あの化け物。腹でも減ってたのか……」
そんな話を聞いていると、なんだか急にお腹が空いてきた。そうだった、私まだ何も食べていないんだった。
「私、お腹空いた……」
「おお、そうかそうか。だったら早くこんなところから出て飯食おうぜ」キヨさんは明るく笑って扉の方へ向かった。「俺もなんか食おうかなぁ……何食う?」
「私は……」
ガチャリ。
キヨさんがドアノブを捻った時、私の意識が遠くに飛んだ。