第13章 香り
「ありがとう、キヨさん」
「俺はなんもしてないって。アロマポットだって、ユメ子ちゃんの部屋にあったものだしな」
私がお礼を言うと、キヨさんは控えめそうに笑った。笑った顔が、ちょっと可愛かった。
それからアロマポットへ視線を戻して私は考えた。キヨさんがクローゼットにアロマポットがあると気付いたのは、あの夢の中で見つけていたからだろうか? そうなると夢の中は、実際ある私の部屋と本当は同じ? 見た目がボロボロなだけで?
「どうした? ユメ子ちゃん」
考え込んでいると、キヨさんが不思議そうに私にそう聞いてきた。私は正直に自分の考えていることを言ってみることにした。
「また夢を見ても、武器とか……部屋に置いていたら、あの化け物倒せるかな?」
「ああ、確かに!」
それはいい考えじゃん! とキヨさんは言い、私たちは家中を探して武器になりそうなものを探した。
武器になりそうな、といっても、キッチンにある包丁を部屋に持って来る訳にもいかないし、野球バットがある訳でもない。最終的に私たちは、玄関にある箒を持って来ることしか出来なくて、ちょっと心もとなかった。
「これで、化け物も倒せるかな……」
「うーん、どうだろなぁ」
不安なのは、キヨさんも同じなのかな。
私が俯くと、遮るようにキヨさんが明るくこう言った。
「ま、なんとかなるだろ! 今度もまた、ユメ子ちゃんと夢の中に行くから!」
大丈夫だ、とキヨさんが言うとなんだか力が湧いてくる気がした。本当に大丈夫だと、そう思える何かを感じた。
「とりあえず、そろそろ飯にすっか。……あ、ユメ子ちゃんは食べれそうか?」
見ると時間は夕方。武器探しにこんなに時間を使っていたなんて、と私は思う。
食欲はないけれど、こんなによくしてくれるキヨさんに、少しでもお礼をしたかった。
「私、ご飯作る」
「お、ユメ子ちゃんが? ありがと、楽しみだなぁ」
私はキッチンへ向かった。