第12章 まるでリアル
「ごちそーさま!」
だんだんと不安になった時、キヨさんの声が遮るように飛んで来て私は顔を上げた。キヨさんが食べていたお茶漬けはすっかりなくなっていて空の器だけがある。
「もう食べたの?」
「まぁな」
と私が聞くと、なんてことはないという顔で洗い物をキッチンに持って行く。私は立ち上がった。
「食器洗いする」
「大丈夫なのか? 具合は」
「だいじょうぶ」
一緒に色々やってもらってるし、これくらいしなきゃ。
キヨさんは渋ったけど、最終的には譲ってくれて、私は少ない洗い物を済ませた。米粒一つ残していなくて、とても洗いやすかった。
「ねぇ、キヨさんは、嫌いな食べ物とかないの?」
洗い物を終えて、ソファに座っているキヨさんに訊ねた。キヨさんはスマホを見ていたけど私が近付くとこちらに目を合わせて瞬きをした。
「そうだな、嫌いなもんは特にないかなぁ」
「そうなんだ……」
じゃあ、分かんないのかな。嫌いな食べ物がある人の気持ち。
「ユメ子ちゃんは? あるのか?」
キヨさんに流れるように聞かれてドキリとした。そっか、私が聞いたから、答えなきゃいけないんだ。
「うん。……梅干しが嫌い」
お茶漬けに入っていた梅干し。キヨさんは種だけを残して綺麗に食べていた。嫌いな食べ物がある私は、悪い子なのかな。
「あー、梅干しね! いるよなぁ、そういう人!」キヨさんはうんうんと何度も頷いた。「漫画のキャラにもいるんだよ。米は食いたいが梅干しは嫌いってな」
「そうなの……?」
「そーそー。よくあるんだろなぁ、嫌いなもんない俺が言ってもなんの根拠もないけどさ」
「そうなんだ……」
些細な言葉なんだけど、どこかでホッとする自分がいた。キヨさんは、怒ったりしないんだね。
「今日どうする? 具合悪いし、横になってるか?」
「……っ」
とキヨさんに聞かれて言葉を詰まらせてしまう私。横になったら、寝ちゃうかも。寝たらまた、あの夢を見る……?
「キヨさんのゲーム実況見る」
断られるかなぁと思いながらも、私はそっと言ってみる。キヨさんは嫌な顔一つしないでニカッて笑った。
「俺のゲーム実況でいいのか? またユメ子ちゃんが見てるだけになるかもだけど……」
「いいの」
私、キヨさんのゲーム実況見るの好きだから。