【WIND BREAKER】愛なんて知らなかった(R18)
第5章 高架の向こう側
『…っ…ここは目立つので…行きましょう。』
私は蓬莱さんの前を歩き始めた。
「俺はもうすぐ日本を発つ。」
『…っ……ぇ…………』
驚いて足を止め、振り返った。
ポケットに両手を突っ込み、俯く蓬莱さん。
「本当は高校を卒業するまでは良かったんだがな…
まぁもう、どうせ時間もない…
いつまでも日本にいた所で変わらないし、早めに行く事にした。」
『行くって…どこにですか?』
「…俺のじいちゃんはアメリカ人で、まぁ手広く事業してんだ。ホテル、レストラン、アパレル、クリニック業…父親も母親もアメリカにいる。だから俺も腹くくって…家族のとこに行こうと思ってる。」
『そう…だったんですか。』
蓬莱さんはアメリカ人の血が入っていたんだ。
どうりで日本人離れした整った顔立ちをしていると思った。
「…そういうことだから、俺はもう二度と、お前の前に現れない。一応悪かったと思ったから挨拶に来た。」
そういうと、白い封筒を差し出した。
『これは……?』
「じいちゃんが日本に持ってるホテルのペア宿泊券。友達とでも使えよ。」
友達…
中を開けて仰天した。
『っ…これ……あのベイカーズグループの…
蓬莱さんのお爺様って…』
ホテルベイカーはめちゃくちゃ高級で有名なホテルだ。
そもそも、会員じゃないと泊まれない上に、会員の年会費も一般人では簡単に払い続けられないと言われている。
「じいちゃんはデビッド・ベイカー。
名前くらいは知ってんだろ。」
これもじいちゃんとこのアパレルの服だ、とパーカーを掴んで見せる蓬莱さん。
クラクラとしてきた。
デビッド・ベイカーと言えば世界のウォルト・◯ィズニーレベルに日本で有名なアメリカ人だ。
そんな有名な方の血縁…いや、跡継ぎが目の前にいる。
『蓬莱さん…真面目にボディガードとか必要なんじゃ…
あっ…蓬莱さんが弱いって…言ってるわけじゃ…』
「…ウザ…わかってるっつーの…
まぁ、この苗字じゃ普通にじいちゃんに辿り着かねぇし、兄弟たくさんいるから俺なんか全然お呼びじゃねぇんだわ。」
『そうですか…』
じゃあな、と言って立ち去ろうとした蓬莱さんを呼び止めた。
『蓬莱さんっ…十亀さんには…言ったんですか?日本を発つこと。アメリカに行く前に会うんですよね?』
「………」