【WIND BREAKER】愛なんて知らなかった(R18)
第5章 高架の向こう側
単純に興味があった。梅宮一という人間に。
風鈴とは過去にぶつかったが、所詮ただの喧嘩。何も残らなかった。
梅宮とサシでやり合いたい。話がしたい。
その為に、手っ取り早く女を利用した。
俺には時間がなかったから…
数日前、俺に会いに来た梅宮は全く、いけ好かない奴だった。
ラートルの根城に一人で乗り込んできたにも関わらず、俺とやり合う気はないと言いきったからだ。
"お前はきっと、話せば分かる奴だから。"
そう言われ、側頭部が軋んだ。
お前に俺の何がわかる…?
"風鈴に関係ない人間を巻き込むな。
それができないなら…"
"俺がお前を叩き潰す。"
まっすぐな眼差し。
瞳の奥に宿した覚悟。
背筋がゾクリと寒くなった。
初めての感覚だった。
俺は
その場でやり合う気になれなかった…
「クソが…」
寝転んだまま見つめていた天井から視線を移すと、ふいに視界に入る大きなスーツケース。
中身は空っぽだ。
一度も開けたことがなく、ケースの上には乱雑に服が積み上げられている。
俺は長いこと部屋の隅にあったスーツケースに初めて触れ、蓋を開けると、新品のケースの香りを嗅ぎながら空っぽの箱の中をじっと見つめた。
side 十亀
電話が終わり、ゆっくりとコーヒーカップに口をつける梅宮に向かって言った。
「悪かったねぇ…梅宮。」
「お前が謝る事じゃねぇだろ。」
「まぁ…ね。
あとさぁ…ずっと言いたかったんだけど…」
「……?」
「あの時はありがとう…ちょーじの事。」
「…いや。お前の気持ちに何となく迷いがあるのはわかってた。あの日、仲間の不祥事が許せなくて制裁しているのを見た時に確信した。お前は曲がった事が嫌いな奴だ、って。」
「………桜とやり合った時、ちょーじの事を真っ先に考えたんだよね。俺は何をやってたんだ、って。それと同時に…快人の事が頭をよぎってさ…」
「…大事な友達なんだな。」
「ふっ…沙良ちゃんにも言われたよ、それ。
中学の時から友達だった快人から、ずっとラートルの総長をやってくれ、って言われてたんだけどね…」
俺は机の上で腕を組み、ベージュ色のコーヒーを見つめた。
「後悔してるのか?獅子頭連に入ったこと…」