【WIND BREAKER】愛なんて知らなかった(R18)
第1章 引っ越し
「じゃ、俺行くわ。ゲンさんち、今日棚卸しでさ、手伝いに来がてら、ことはに会いたくなって来ちゃったの。
もう少ししたら昼飯食いに来るなー。」
「え?変な時間に来ないでね。一旦お店閉めるから。来るなら連絡して。」
「わかった。またな、沙良。」
『あ、はい…また……』
梅宮さんは足早にお店を出ていった。
「ったく、ごめんねー。騒がしい奴で。」
ことはさんは、やれやれ、といった顔をする。
『いえ…優しそうな方ですね。ことはさんの…彼氏さんですか?』
「え……?」
『あっ…ごめんなさ……』
「あははっ、アイツと同じ事言うからびっくりして。」
アイツ…?
「梅はそんなんじゃないわよ。…腐れ縁ていうか何ていうか。私の事を妹みたいに可愛がってくれてるの。」
『そうなんですね…』
「……沙良ちゃん、私達同い年なんだから、敬語やめよう?あと、さん付けじゃなくて、できればちゃん、もしくは呼び捨てが嬉しい。」
『ぇっ……いいんですか……?』
「勿論。たくさん話しかけちゃってごめんね。
食べて食べて。」
こんなに気さくな女の子と話をするのは初めてだった。
こんな子も世の中にいるんだ。
ことはちゃん…とても優しい子。
この町に来てよかった。
温かい気持ちで食べかけのオムライスを口に運ぶ。
ことはちゃんの作ってくれたオムライスは、冷めてもとても美味しかった。
ーーーーーーーーーーーー
『あの…ことはちゃん、アイスコーヒーのお金、出しま…出すね。悪いから…』
「いいのいいの。すんごくささやかだけど、引っ越しのお祝い。これからまた遠藤さんには町の事でお世話になるだろうし。」
『ぁ……ありがとう。』
店内は空き始め、お客さんは私とお婆さんだけになっていた。
私はオムライスのお金を払うと、店を後にしようとドアの方に向かった。
「あ、沙良ちゃん、待って。」
『………?』