【WIND BREAKER】愛なんて知らなかった(R18)
第1章 引っ越し
私はまた深々と頭を下げた。
「…………沙良ちゃんさ、さっきから思ってたんだけど、何でそんなに謝るの?私は全然気にしないから、好きに、のびのび喋ってよ。」
『……のび…のび?』
"沙良って話つまんないよね。"
"たまにさ、失礼な事サラッと言うよね。冗談かもしれないけどあれ、ウザいよ。"
ドクン…ドクン……心臓が早鐘を打ち始める。
のびのびって………何?
「あ、ごめん。そんなに眉間に皺寄せないで。
困らせようと思ったんじゃないのよ。」
ことはさんが焦ったように言うと…
カランカラン
扉に付いていた鐘が軽快に鳴った。
「こ・と・はー!来たよっ♡」
シルバーにブリーチした髪をサラサラと靡かせた男の人が勢いよく店に入ってくると、私の隣にどかりと座った。
『…っ……』
突然知らない男性が近距離に座った事にびっくりし、思わずほんの少し反対側にズレた。
「ちょっと梅、お客さんに失礼でしょ。
いきなり隣に座るなんて。沙良ちゃん、ごめんね。」
『あ、いえ……』
「あぁ、ごめんね。…って、初めて見る顔だ。この辺の子?」
男の人は私の目をじっと見つめながら、笑顔で話しかけてきた。人懐こそうな垂れ目で、着ているTシャツには【健康第一】と書かれている。
『っ…ぁ……えっと…』
「遠藤のじいじのお孫さんなんだって。今日越してきたって。遠藤沙良ちゃん。お店の方はお父さんが継ぐそうよ。」
「え、マジ?遠じいのお孫さんかぁ。可愛いねぇ。どこの中学?」
「『…………』」
「あははっ、私と同じ事言ってる。幼く見えるわよね、美人なのに。沙良ちゃんは私とタメよ。そういえば、高校はどこなの?」
『星美女子高校…です。』
「星女…?!すごい進学校って聞いたことあるわ。沙良ちゃん頭いいんだ、尊敬する。」
『…勉強しか、やることなかったから…
全然凄くないです。』
「………」
「そっか。俺は梅宮一。3年だ。
沙良、これからよろしくな。」
にっこりと微笑みながら右手を差し出す梅宮さん。
呼び捨て…
『よろしく…お願いします。』
おずおずと、差し出された手をぎゅっと握った。
大きくて綺麗な手。
これが、梅宮一との出会いだった。