【WIND BREAKER】愛なんて知らなかった(R18)
第5章 高架の向こう側
「最初はラムネ10本て言おうとしたけど、ラムネ5本と、あとは…勉強見てもらおうかな…5回。」
10という数字にこだわるんだ…
そんな事を考えながら頷いた。
「俺の家はさぁ…さっきの居酒屋のすぐ近くの金物屋なんだ。家っていうか、じいちゃんちだけど、俺が勝手に店の方のじいちゃんの部屋に入り浸ってるの。」
高架をとっくに越し、商店街に入って家はもうすぐそこだった。
「ラムネ…1本ずつ取りに来るよ。今日1本いただくから、あと4本取りに来たいし、連絡先教えて。」
十亀さんと連絡先を交換すると、じゃあまたね、とあっさり帰ってしまった。
『あ…ラムネ……渡してない…』
ラムネを掴み、急いで外に出るも、既に十亀さんの姿はなかった。
『いない…』
あまりの早さに驚いた。しゃべり方からは俊敏さが全く感じられなかったから。
蓬莱さんが100パーセント来なくなるかはわからなかったけれど、何となく心は軽くなった気がした。
side 梅宮
最近は前よりも、眠れるようになってきた。
街にも人にも何も起きず、平穏な毎日だった。
「よし…連絡はこんなとこだ。梅宮から何かあるか?」
柊が俺の方を向いた。
「いや…皆、今日もありがとな。引き続き、それぞれの衆をよろしく頼むよ。」
幹部を集める定例会が終わり、お開きという所だった…
カランカラン
「…っ……」
「あれ…?十亀?」
「こんばんはー。来ちゃったぁ。」
ヒラヒラと振る手には、アンパンが握られている。
「何だよ珍しいな、どうした?兎耳山も一緒か?」
いつも一緒なはずの兎耳山の姿が見えず、後ろを覗き込む。
「今日はちょーじはいないよ。俺は沙良ちゃんを店まで送り届けに来ただけだから。」
あぁあと、このアンパン買いに来たんだー、と笑う十亀。
「十亀…沙良と知り合いなのか?」
「いや…ついさっき知り合ったばっかりなんだけどさ、大変だったんだ。沙良ちゃん、お酒の配達なんかしてるから、悪い奴らに絡まれちゃって…
女の子があんな一升瓶の配達なんてしてるの、初めて見たよ。
そういう街のあれこれをするのが風鈴だって思ってたから、どうしたのかなって…心配になっちゃった…」
「………」
何も言えなくなった俺に十亀は言った。