【WIND BREAKER】愛なんて知らなかった(R18)
第5章 高架の向こう側
作務衣に下駄、オレンジのスカジャンを着た男の人が気配もさせずに私の隣から顔を出した。手には銭湯にでも行くのか、桶を抱えている。
『…あの……』
言いかけたその時、
「ひぃぃっ……と…十亀だっ。獅子頭連の十亀条っ…」
ドシン、と尻餅をつく男の人。
「へぇー、俺のこと知ってるんだぁ。でも、誰かな?俺は知らないよ、君みたいに弱い者イジメするやつは。」
しゃがみ込んで尻餅をついた男にニッコリと微笑み
「知りたいなぁ…君の事。俺は全然構わないけど?」
胸ぐらをつかんで顔を近づけた。
「ひぃっ…すみませんっ…すぐに…いなくなりますんで…」
わたわたと立ち上がり、もう一人に手を引かれて二人の男は逃げ出していった。
『あの…ありがとう…ございました…』
「いえいえ、酒屋さんなの?お酒なんて持って。」
『あ…はい。配達の途中なんです。この近くのお店で。』
スマホを握りしめる。
「見せて?あ…うちのすぐ近くだ。案内するよ。」
そう言うと、自転車の前カゴに桶を入れ、自転車を引いて歩き出した。
『あのっ…大丈夫です。申し訳ないので…』
たたっ、とついて行くと、スカジャンのその人は笑いながら言った。
「何言ってるのぉ?全然大丈夫じゃなかったじゃない。
残念だけど、この辺はあんま治安良くないんだぁ。怖い思いさせてごめんね。」
その人は、少し悲しそうな表情をした。
『ありがとう…ございます。あの…十亀さん…獅子頭連の方なんですか…?』
「ん?そうだよ。俺のチームの事知ってるの?参ったなぁ、有名なのかな?」
ははっ、と笑ってこちらに視線を向ける。
「俺は十亀条。君は?中学生?」
『…高校生です。遠藤沙良と言います。家は東風商店街で酒屋をしていて…」
言いかけると、十亀さんは目を見開いた。
「商店街から来たんだ。じゃあ風鈴の事も知ってるよね?皆元気?」
『……わからないんです。
私も皆元気かな、って毎日…考えていて…』
「…………はい、ここだよ、沙良ちゃん。
俺もここの親父さん知り合いだから、入るよ。」
お店の暖簾を慣れた手つきでくぐり、中に入る十亀さん。
親父さんにお酒を渡し、私を紹介すると中のお客さんがあっという間に十亀さんを囲んだ。
皆に好かれてるんだ。
なんか…