【WIND BREAKER】愛なんて知らなかった(R18)
第5章 高架の向こう側
「偉そうに、梅の気持ちがわかったか、なんて言ってごめんね…チームにいる以上、誰しもがそういう事は心配になるよね。
梶の沙良ちゃんへの気持ちも…疑ってごめん。」
「いや…」
梶は飴を掴むと、立ち上がった。
「アイツにいい友達がいるってわかってむしろ…
安心した。」
そう言うとヘッドフォンをつけ、店を出ていった。
誰かを思うが故に遠ざけたり、傍にいる道を諦めたりしなければならないなんて…
「辛いよね…」
梶がどう選択しても、誰も責める権利はないと思った。
ーーー1週間後ーーー
side 沙良
「…っ…どうしようかな……」
『お父さん…?どうしたの?』
夕方、2階から下に降りてくると、お父さんが店を行ったり来たりしており、声をかける。
「今から組長会議なんだ。飲み屋街の居酒屋から日本酒が足りないって個人的に連絡が入ってさ…行ってやりたいんだけど、遅れるわけにはいかんし、どうしたもんかと思って…いや、やっぱり断るか…」
店は今日、休みだ。直接店に連絡がくれば繋がらないが、最近は店主同士の繋がりができ、休みが休みではなくなる日も多かった。
『私…行こうか?』
「何言ってるんだ!?もう暗くなる。
もしもの事があったら俺は後悔したってしきれないよ。」
『大丈夫だよ、防犯ブザー持ってるし、催涙スプレーもあるじゃん。永遠にこんな隠れるみたいな生活なんてできないし、いつかはまた普通に戻らなきゃいけないんだよ…?』
「んー…いや、いい。なら風鈴の子達に頼む…って…俺がお前と関わり持つなとか言い出しておいて、困った時だけ頼むのは、むしが良すぎだよな…」
お父さんはガクっと下を向いた。
「お父さん、飲み屋街も人は増えてくるでしょ。人目がある中で悪い事ってできないよ。大丈夫。」
どれ?と、日本酒を探した。
自分にもこれ位の手伝いはできる、と示したかった。
「んー…絶対なんかあったらブザー押してくれよ。何なら握りしめておいてくれ。あと、家に帰ったら必ず連絡してくれよ。」
ブザーはGPS機能と防犯ブザーの機能が備わっており、父の携帯にも連動して音が鳴るようになっていた。
「わかった。行ってらっしゃい。」
自転車の荷台に箱をセットし、日本酒を立てると高架の向こう側を目指してこぎだした。