【WIND BREAKER】愛なんて知らなかった(R18)
第5章 高架の向こう側
榎本に体を揺すられ、ハッとした。
「…っ……」
「おい…お前今日変だぞ…何かあったのかぁ?」
「…大丈夫だ。続き…話せ…」
話をしていた橋ケ谷が続けた。
「あ…あぁ。病院送りにされたっていう女の子は皆総長クラスの彼女だから、うちでいうと梶になる。彼女は…いないとは思ったけど一応耳には入れておいた方がいいと思ってよ。」
「…わかった。……ありがとな。」
バサバサっ…
「え…ありが…とう?」
奥村が読んでいた漫画を落とした。
何だ。皆同じ反応しやがって。
俺だって、礼の一つや二つする事はある。
「……帰る。」
気分が悪くなり、皆に帰ることを告げると学校を後にした。
「…………」
朝、沙良にメッセージを送った。
体は大丈夫か、気分はどうだ、食欲はあるか…
文章を打っていて俺は親か?と思い、何回も打ち直した。
歩きながらスマホを取り出すと、メッセージを開いて画面を見つめた。
"元気です。昨日は送ってくれてありがとう。
またポトスに行けるようになったらよろしくお願いします。"
朝から何回も見たその文面を再度確認する。
またポトスに行く気持ちがあるのかと嬉しくなったり、ありがとうという礼で、妙に心が温かくなったりした。
榎本達への先ほどの礼はおそらくその余韻だ、と納得する。
昨日の事もあり、俺の頭の中は沙良でいっぱいになっていた。
これからの事も勿論考えた。
自分の気持ちを遠藤さんに伝え、そして…
だが、考えていた事は先程の橋ケ谷の話で吹き飛んだ。
もし俺が沙良と一緒にいたら…
まだ沙良の気持ちも聞いていないのに馬鹿げてはいるが、俺を拒否しなかった事から、かすかな期待をした。
けれどいつ、アイツを巻き込むかわからない。
俺は…アイツの側にいない方がいい。
「………」
ガリっ…
奥歯で飴を噛み潰すと、俺の足はポトスに向かっていた。
side ことは
「ねぇ梶…少し話さない?」
店にはお客さんは一人しかいなかった為、テーブル席でスマホをいじる梶に声をかけた。
「………」
少し面食らった顔をしたけれど、すぐに頷き、ヘッドフォンを下げてカウンターに移動してくれた。
「私は気づいてたわよ。梶が沙良ちゃんの事、好きだって。」