【WIND BREAKER】愛なんて知らなかった(R18)
第5章 高架の向こう側
side 梶
月曜日の放課後。
クラスの連中はくだらない話で盛り上がっていた。
彼女と何回連続でヤったとか、町でナンパしまくったとか、そんな話題だ。多分…
聞こえないからわからないが、ヘッドフォンに慣れた頃、唇の動きが読めるようになった。
ふと、榎本と楠見の方を見る。
二人とも笑い合いながら、榎本が何か話している。
榎本には礼が言いたかった。
"おめぇもどこで何があるかわかんねぇからなぁ"
と、冗談で財布に入れられたゴムが、昨日は役立った。
「………」
「んぁ?ぬぁんだ梶、何かあったか?」
"どうしたの?"
楠見も心配してスマホの画面を見せる。
「………」
俺は飴を口から出し、ヘッドフォンを肩にかけて、聞こえるか聞こえないかの声で言った。
「………ありがとな。」
ゴトンっ
楠見がスマホを落とし、榎本が顎を外しそうなくらい口を開けている。
「ありがと…な…?」
熱でもあんのか…?どうした梶…!?
楠見と榎本はパニックを起こしたように俺の額に触れたり、顔を覗き込んだりした。
「別に…」
俺は飴を口に入れ、ヘッドフォンをつけ直すと外を見つめた。
そんな俺を見つめ、ヒソヒソと話を続ける2人を眺めていると、クラスの連中が寄ってきた。
「おいお前ら、聞いたか?Snakesのお礼参りの話。エグいぜ、マジで…」
「あ?Snakes?」
Snakesは春に俺ら多聞衆2年がぶつかったチームだ。
強かったが、互いにボロボロになりながらも何とかうちが勝った。
トップは気持ちのいい奴だったと思う。こっちの頭は俺だったし、サシでやり合ったから覚えている。
「総長のやり方がぬりいって副総長に寄ってた連中らから下剋上に遭ったらしくてさ…副総長がトップにのし上がったらしいが、そいつのやり方がクソなんだよ。」
「なんだよ?どうクソだってんだぁ?」
榎本が詰め寄った。
「何でもよ、負けたチームのトップの彼女片っ端から殴ってマワして病院送りにしてるらしい…昨日もどっかのチームのトップの彼女嬲り倒して意識不明にしたって…」
ドクン…
「胸糞わりぃ連中だ…もう1回シメるか…なぁ梶。……梶?」
俺は…蓬莱の足元で呆然と涙を流す沙良の姿を思い出し、思わず固まった。
「梶…?おい、どうしたぁ?」