【WIND BREAKER】愛なんて知らなかった(R18)
第3章 遭遇
side 梶
ここ最近、俺は以前に比べ、勉強が嫌いではなくなってきたように思う。
理由は明確だ。遠藤沙良が俺達風鈴の勉強をみるようになったから。
初めは沙良の高校受験用の中学の問題をやったが、何が何やらチンプンカンプンで、皆絶句した。
俺たちの教科書を確認すると、即座に自分で問題を作り上げ、的確に指導してくれた。
勉強なんてしたこともないに等しい俺達に根気強く、わかりやすく教えてくれる沙良の姿は新鮮で、女がこんなに近くにいるのもまた新鮮で…
本人は全く気づいていないが、あっという間に沙良を目当てにかなりの人数がポトスに集まるようになった。
アイツの教え方のせいか、文字や数字を見るのが苦ではなくなった。「わかる」ことが、こんなに学習意欲に繋がるのだと、初めて知った。
もしかすると本当の俺はケンカより、勉強の方が向いているのかもしれない。
ゴロ…
口の中で飴を転がしながら、そんな事あるわけないと思い直し、今日も見回りがてらポトスに向かう。
ヘッドフォンの調子が悪くて電気屋の佐藤さんちに寄った為、少し遅くなってしまった。
歩くスピードを速めると、見慣れた物が道端に転がっているのに気がついた。
「………」
急いで拾い上げると三毛猫のストラップ人形だった。
"前に家で飼ってた猫にそっくりで、衝動買いしちゃったんです。"
榎本達の質問に、恥ずかしそうに笑って説明するアイツの姿を思い出した。
本人には言えなかったが、決して可愛いとは言えない顔つきの人形だったため、はっきりと覚えていた。
これは…沙良がいつも鞄につけていたものだ。
「………」
何故こんな所に…
遠藤酒店からは少し離れているし、こんな狭い道をアイツが使うとは思えなかった。
ふと、近くの工事現場から人の気配がする事に気付いた。
シートがヒラヒラと風に靡いているが、中までは見えない。
心臓が早鐘を打ち、冷や汗が噴き出しそうなのがわかる。
当たり前だが、恐いわけではない。
ただ、考えていることが当たるな、という思いが、どんどん鼓動を加速させ、体を熱くした。
俺はシートに近づき手をかけると、勢いよく開けた。