【WIND BREAKER】愛なんて知らなかった(R18)
第3章 遭遇
体を動かそうと手に力を入れようとすると、腕を後ろにされ、親指を結束バンドで結ばれているのに気がついた。
引っ張ってみても、バンドが指に食い込んでズキズキと痛むだけだった。
『私に…何か御用…ですか…?』
蚊の鳴くような声を何とか絞り出した。
「ま、返答次第では協力してもらう事になるかな。
どうします?蓬莱さん。」
男の人の目線の先にはフードを被った少し小柄な人が鉄パイプの山の前に腕を組んで寄りかかっていた。
すぐにわかった。
この人がこのチームのリーダーなんだと。
周りの景色に目がいくと、私は初めてここが、工事現場だということに気がついた。
シートで覆われていて、外は見えない。
『……返答…次第?』
蓬莱と呼ばれた男の人は私の前まで足音も立てずに真っ直ぐ歩いてくると、フードを取ってマスクを下げた。
「………」
『………』
フワフワとした茶髪に、つり目がちの大きな瞳。
小さな鼻はスッと筋が通り、薄い唇は女の子のようだ。
顔はモデルのように端正なのに、耳には似つかわしくない程の夥しい数のピアス。軟骨部分に何本も棒の刺さった耳は、ピアスを開けたことのない自分には痛々しく見えた。
膝を曲げて私の顔をじっと見つめると、口角を上げて言った。
「可愛いね。キミが梅宮の彼女?」
高く柔らかい
澄んだ声だったのに
ゾクりと背筋が凍った。
目の奥が、少しも笑っていなかったから。
梅君のことも知っているんだ。
『彼女…では……ないです。』
小さな声で答えた。
「ふぅん…けどここ最近、梅宮は随分キミにご執心なんじゃないの?」
顎に手をあて、顔を傾ける蓬莱と呼ばれる男は、興味もなさそうに私の体に目をやった。
『ご執心…?違う…と思います…』
追いつかない頭で色々な事を考える。
この人たちは何か勘違いをしてる…?
梅君が私にご執心だから、私を拉致している…
だとすると私は…
『…っ……』
瞬時に逃げようと足に力を入れた。
「おっと。」
グっと足で太腿を踏みつけられ、制服の襟を掴まれた。
「勘がいいね、沙良ちゃん。そう、キミは梅宮をおびき寄せる為の囮だよ。」