• テキストサイズ

【WIND BREAKER】愛なんて知らなかった(R18)

第1章 引っ越し


「……。沙良…。」

『…っ……』


古い木造の建物の茶の間に敷き詰められた段ボールの山を、ぼうっとしながら見ていると、父の声がした。


「引っ越しで疲れたか?父さんこれから、商店街と組合の方に挨拶に行かなきゃならないから、昼ご飯は適当に済ませておいてくれ。
商店街を探検しながら、いい店探すのも面白そうだな。
あぁ、探検なんて子供みたいか…」


はは、と笑う父の晴れやかな顔に胸がズキンと痛む。


『お父さん…』

「ん?」

『本当に…小学校教師の仕事にもう未練はないの?』

「…んー、もう切り替えたな。
やり甲斐は勿論あったけど、長い事1つの仕事やってると、全く別の仕事もやってみたかったな、とか思うもんなんだ。だから父さんはラッキーだ。教師はやりきったよ。」

『………』


まだ仕事もした事がない自分には確かにわからない。
わかる筈ない。忙しそうだったけれど、教師をしていた父はキラキラと輝いて見えた。
今、学校ではどんな授業をしている?そこで沙良はどう考えた?などと聞かれては2人で盛り上がったり、復習になったりした。
聞かれた事にしっかりと答える事で父に褒められ、何だか誇らしかった事も思い出した。父との会話は本当に楽しかった。

だからこそ…


『ちょっと…外出てくるね。』


まだ受け入れられていない自分がいるのを悟られたくなくて家を出た。

自分に父の選択を否定したり反対したりする権利はない。
父親の店を継ぎたいなんて息子の鑑じゃないか。
それを受け入れられないのは、自分の理想を父に押し付けているだけ…


『はぁ……』


土曜日の商店街は随分と賑わっていた。



それにしても…

商店街にここまでの活気があるなんて珍しい。
地元の商店街は数年前からシャッター街になってしまった。
大型のショッピングセンターやモールに人が溢れるこの時代、買い物なんて家にいたってスマホで一瞬にしてポチれる。

それなのにこの賑わい。

よく見ると、ほとんどのお店で店員さんとお客さんが談笑している。
明日ね、とか、おやすみ、なんて声が聞こえてきた。


『ふふっ、家族みたい。』


地元の人に支えられている、昔ながらの商店街なのかな、そんな事を思いながら歩いていると、可愛らしい喫茶店が目に入った。
/ 127ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp