【WIND BREAKER】愛なんて知らなかった(R18)
第2章 出会い
『…私でよければ是非。ケンカはできないけど勉強なら少し、力になれるかも。あと、落書きもよければ消させてほしいな。
私もこれからこの商店街で暮らしていくし、街の事知りたい。
だから…声をかけてくれてありがとう。』
自分にも、チャンスだと思った。
もしかしたらこの街なら…淡い期待で胸がいっぱいになった。
「おぉ、そっか。そう言ってもらえると嬉しいわ。
ありがとな。」
ニカっと笑うと、私の頭にポンポンと手を置いた。
「これからよろしく、沙良。」
『こちらこそ…よろしくお願いします。』
気づいたら、心臓も胃もギュッとならず、自然に話ができるようになっていた。
どんな顔をしたら良いかも、考えなくなっていた。
お父さん以外の男の人と、こんなに長く一対一で話すのは…
4年ぶりだ。
"うっわ、何ソレ。病気?"
"腐ってるんじゃね!?やばっ、伝染る伝染る。"
ドクン………
「…沙良?」
『ぁ……えっと…大丈夫です、ここで。』
「どうした?顔色悪い。気分悪いの…」『本当にっ…大丈夫なので。』
送ってくれたお礼も言わず、走るように店の中に入った。
『はぁっ………はぁっ…』
何で今更こんな事…
もう4年も前の事なのに…
パタパタと落ちる涙を拭いながら、また心の中に現れた彼らを消すように、制服の上からゴシゴシと胸を擦った。
嫌い…嫌いだ、こんな自分。
忘れろ…忘れろ…
"これからよろしく、沙良"
『…っ……』
梅君の笑顔が、ぼんやりと浮かんだ。
『…ふっ……チャンスって…何の………?』
次から次へと目尻から零れ落ちる涙を拭いながら、1ミリでも明るい未来を夢見た自分を嘲笑した。
梅君…
過去に囚われ続けている自分なんかが、誰かのためになる事なんてできないよ…
空に浮かぶ無数の星が、部屋の電気もつけずに机の隅に座り込む私を、無言で照らし続けていた。