【WIND BREAKER】愛なんて知らなかった(R18)
第7章 ※本当の私
「じゃあ、ことはちゃん…アレ……」
ことはちゃんが頷くと、お店の奥に入っていった。
アレ……?
パッと電気が消え、皆の顔が見えなくなった。
『…っ……』
軽快な誕生日ソングが流れる。
「沙良ちゃん、誕生日おめでとう。」
ことはちゃんが持ってきてくれたのは、16という数字のキャンドルが立った、チョコレートのホールケーキだった。
キャンドルの灯りがことはちゃんの顔を照らし、幻想的だ。
皆思い思いのリズムで歌ってくれる。
「「「「ハッピバースデートゥーユー!」」」」
最後をハモろうとする人にツッコミが入る。
「バカっ、橋ケ谷…ハモれてねぇわ!」
「んだよ、雰囲気だろっ。」
思わず笑ってしまうと拍手が鳴り響き、フっとロウソクの火に息を吹きかけた。
電気がつくと
「沙良ちゃんおめでとー。」
「いい16才になるといいな。」
「これからもよろしくー。」
という声と拍手が聞こえ、胸が熱くなった。
「沙良ちゃんこれ、皆から。」
『…っ……これ……』
「ふふっ…今どき古風かとは思ったんだけど、色紙、皆で書いたの。」
ことはちゃんが渡してくれた色紙には、皆さんからのメッセージがびっしりと書かれていた。
隙間には私のアプリのアイコンやノート、教科書…制服を着た女の子の絵などが描かれている。
ポタ…ポタ…
涙がこぼれ落ち、視界がぼやけて周りが見えない。
『ありがとう…大切にします…』
生きてきて嬉しかった事は、たくさんではないけれど確実にあった。
家族で出かけた事…
お母さんとご飯を作った事…
けれど
友達と…こんな風に過ごせる日がくるなんて、想像したこともなかった。
『……ひっ……く……』
胸が震え、しゃくり上げる私の背中を、そっとさすってくれることはちゃん。
「……沙良ちゃん、これからもよろしくね。」
頷いて涙を拭うと、視線が私に集まっていることに気付いた。
「えー…じゃあ沙良ちゃん…
感動して泣いてくれてる中ごめんね。よければ主役から一言もらえるかな?」
『ぇ………』
杏西君の言葉に固まった。
どうしよう……
何も準備していない…
緊張で喉が詰まり、その場に立ち尽くした。