第53章 和解
「ここが出口ですの?」
ノゾミが出口のポータルを覗き込んで訊ねた。ポータルの中は影よりも深い色をして、少し不気味だった。
「そうみたい。ぼんじゅうる様たちは、ここを通って帰ったから」
と私は答えながらも、その名前を口にするとキュッと胸が切なくなった。このポータルを通っても、もう彼らには、会えないんだ、と。
「一度ちゃんとお会いしてお礼を言いたかったわ。きっと素敵で頼もしい方々だったのでしょうね」
「うん、本当に、頼もしい人たちだったよ」それから私は、旅の鞄をノゾミに差し出した。「ここに、ぼんじゅうる様が被っていたサークルがあるわ。これを城の一番目立つところに置いて、王国中に彼らの英雄を語り継いで欲しいの、ノゾミ」
「嫌よ、お姉ちゃん。どうして私がやるの?」ノゾミは私の鞄を受け取らなかった。「勇者様と冒険をして世界を救ったのはお姉ちゃんなのよ? 私が出る筋合いはないじゃない」
「だって、私は、もうあの城には……」
「お姉ちゃんを追い出す城なんて、私がそんな城を追い出してあげますわ。お姉ちゃんは私を助けてくれたんですもの、それくらいはするわよ」
とノゾミに真っ直ぐと見つめられて、私は肩を落とした。ノゾミの頑固さは、私もよく知っていることだ。
「……ありがとう、ノゾミ」
「さ、そうと決まったら帰りましょ、お姉様」ノゾミは鞄を受け取らない代わりに手を差し伸ばした。「勇者様と世界を救った、ユメ女王様と共に」
「やめてよ、ノゾミ。私は女王様じゃないわよ」
けれどもノゾミは、イタズラっぽくふふっと笑って。
あ、昔の頃の私たちだ、と思った。
「どうしたの、お姉様?」
「ううん、なんでもない」私はノゾミの手を取る。「帰ろう、一緒に」
私たちは二人手を繋いで、ポータルへと足を踏み込んだ。