第52章 鈍器
「もっと貴方と分かり合える日が来たら、共存の道も考えることが出来たでしょう」
と私は静かにエンドラに言った。エンドラがどうして人間を憎んでいるのかは分からない。だけど、私はこの旅で沢山のことを学んだ。ぼんじゅうるたちが私に寄り添ってくれたみたいに、きっとエンドラと、分かり合える日もあったのかもしれない、と。
「小癪な……!」
だがエンドラはまだ怒っていた。終いには私の手に噛み付こうとして周りのみんなが慌てたが、私は手を引っ込めなかった。
エンドラが今まさに私の手に噛み付こうとした瞬間、その鰐口がガラガラと音もなく崩れるように消え始めた。エンドラの消滅は既に顔まで迫っていたのだ。
「せめて、あの世ではお幸せに……」
私のこの言葉を聞いたエンドラは赤紫の瞳を大きく見開き、そして、とうとう跡形もなく消え去っていった。
あとには虚しい空気だけが横たわっていて私は力なく座り込む。はぁっと深く息をして、生きている心地を実感する。
私は本当に、エンドラと共存する未来も信じていた。この戦いの中で少しでも心が揺らいでくれたら。……トドメを刺さなかったら、なんて考えてしまってぎゅっと目を瞑る。