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導きの巫女と勇者サマ御一行[dzl]

第38章 幻影


 謎の轟音は、私たちが現場へ向かう途中でも何回も聞こえた。
 文句言いたげなぼんじゅうるも、本当は心優しい人だということは知っている。だから私には何一つ文句も言ってこない。それどころか大丈夫? と聞いてきたり目配せするなりにこりと笑みを見せてくれて、彼なりの気遣いなんだろうなと伺えた。
 ドズルはというと、謎の大きな音に驚きはするものの、どんどんと前に進んで笑顔の絶えない人だった。鍛えられた体で進む彼の足取りは力強く、時折些細なことでも魔法を掛けてサポートしてくれて道中険しくて馬が入れず徒歩だったのにも関わらずとても楽だった。
 さり気ない気遣いを見せてくれるのがおんりーで、一番足取りが遅い私を振り向いては手を貸してくれることが度々あった。横では一緒に並んで歩いてくれるおらふもいて、私は心の中から頼もしい人たちだなと思っていたのだ。
 しばらくすると、轟音が聞こえていなかったことに気が付いた。ネコおじは私の真後ろで、仕切りに「山神様の祟りじゃ、お怒りだ」と口々に言って怯えている様子だった。その都度おらふの周りを飛び回るアレイが心配するなと近付いたり鈴の音のような鳴き声を発したが、ネコおじはそれさえも酷く驚くので、蜂の群れも少し離れたところから私たちのあとをついて来ていた。
 と次の瞬間、おらふの足元にいるオオカミが吠えた。どうしたんやとおらふが聞くや否や、間近であの轟音が聞こえて私は思わず尻もちをついてしまった。
 しかし、聞こえたのは轟音だけではなかった。
「グゥオオオオオオ……!」
 それは、どこか聞いたことのある咆哮のようでもあった。私がその声の主を見上げた時にはぼんじゅうるたちはすでに身構えていてそこに渦巻く黒い何かと一人の人間を見据えていた……。
「え……あれは……?」
「エンドラの幻影だっ」
 ぼんじゅうるが小さく叫んだ。そんな話、聞いたことがない。エンドラの、幻影……? じゃあさっき聞こえた咆哮のようなものは、本当に咆哮だったのだろうか?
 私は大巫女の杖を支えになんとか立ち上がる。そこには確かに、エンダードラゴンを模した黒い存在が、たった一人で立ち向かう男性に今まさに噛みつこうと大口を開けていたのである──。
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