第4章 急襲
「ノゾミ……!」
「お姉ちゃん……!」
黒いドラゴンの手に鷲掴みされたノゾミは、私に向かって両腕を伸ばした。……あと少しで、届きそうだった。
「ガッハッハッ! コイツが、次期大巫女のガキだな?」なんと、ドラゴンは大太鼓のような声で話し出したのだ。「どうやら長女の方は能無しらしいからな……お前は放って置いてやろう」
とドラゴンは私を見てそう言った。私には返す言葉がなかった。
「離しなさい、エンダードラゴン……!」
と言って大巫女の杖を取り出したのはお母様だった。お母様はすでに玉座を下りていて、黒いドラゴン……エンダードラゴンと対峙していた。隣では毅然とした態度でエンダードラゴンを睨みつけているお父様もいる。
「クレア、お前はもう俺を封印する力はないはずだ」とエンダードラゴンが話し続ける。「そんなくすんだ杖、何も怖くないわ!」
そう言うなりエンダードラゴンは体を翻した。
すると大きなトゲトゲしい尻尾が、壁や柱を破壊しながらお母様を狙った。私が悲鳴を上げるか否か、隣にいたお父様の姿さえ尻尾と土煙でよく見えなくなり、私はというと揺れた床に足元を取られて倒れ込み、そこにいた一人の兵士に庇ってもらうばかりとなっていた。
すぐには、強い風が吹き込んで周りが明るくなった。私を庇うように覆いかぶさっていた兵士が、大丈夫ですかと体を起こしてくれる。
だが、視界には絶望が広がっていた。間近にいたドラゴンはあっという間にどこかに立ち去り、お父様は膝をついて倒れているお母様の介抱をしている。大巫女の杖は、見るも無惨に粉々になっていた。
そして、城の大半はドラゴンによって破壊し尽くされ、この辺りが明るかったのも天井が壊されていたのだと知る。
「ノゾミ……」
私がやっと声を出せたのはその一言だけだった。エンダードラゴンは、ノゾミを連れ去ってどこかに行ってしまったのだ。