第30章 スケルトン家族
そうして、私はおらふとバルコニーから城下町を眺めながら雑談をすることになった。
「スケルトン家族さんは、僕が迷子になっちゃった時に助けてくれたんよ」とおらふが語り始めた。「僕、みんなとはぐれちゃって。その時に小さいスケルトンがおって……」
そうして案内されたのがあのスケルトン家族がいたピラミッドだったのだそうだ。お互い言葉は通じなかったのだが、獣使いのおらふにとっては気になるものでもなかったのだろう。子どもスケルトンに案内されたおらふは、そこで、捕まっている仲間たちと合流出来たのだそうだ。
「え、捕まっていたんですか?」
「そうなんよ。子どもスケルトンの親が、不法侵入者だと思ったみたいでみんなを捕まえてて」
子どもスケルトンが親に説得をしてくれて、みんな無事に解放してくれたのだそうだ。
「いい人たちなんですね」
「いいスケルトンだったなぁ……」
おらふはその言葉を最後に口を閉ざした。だから私も何も言わず、知らない過去の彼らに思いを馳せた。お母様の口から聞いたこともない冒険譚。お母様も捕まったんだと思うと、なんだか新鮮だった。母でありながら憧れでもあり、神聖的な存在の人が、様々な困難に巻き込まれていたと思うと、やっぱり私と同じ、人間なんだなぁと思う。
「あ、ごめんなさい、僕だけ喋って」ハッとしたようにおらふはそう言って私の方を向く。「ユメさん、大事な杖捨てちゃって、悲しい気持ちなのに……」
「いえ、私は、いいんです」
ただ、大巫女の杖をマグマに捨てるという選択をした私に嫌悪感を抱いた。私、このまま城に帰れるのかしら。杖より自分の命を優先した私が……。
そう考えている間に、おらふはガラスケースからポピーを取り出した。もう十年以上も昔の花が枯れずに保管されていたのは、ガラスケースの中に特殊な魔法が掛かっていていたのだろうと思われた。だが今そうしてポピーをガラスケースから出すということは……。
「あの、花が……」
「外に出したら、枯れちゃいますかね」
「多分……」
私はおらふに曖昧な回答をしてしまったが、彼は気にしていないようでただただポピーを見つめていた。不思議な模様が描かれた包み紙に一輪の赤い花。それはガラスケースから取り出した今も、とても美しいように見えた。