第27章 生死
「ユメさん、今引き上げるからね!」
とドズルが近付いてくれるが、見えないところでおらふが叫んだ。また敵が出てきた! と。
「みんな、強化魔法掛けるからもう少し耐えていて!」
とドズルは三人に何かしらの手振りをして私へと手を伸ばそうとした。もう少しで届きそうなのだが、もう片方は大巫女の杖を持っているので私は身動ぎが取れなかった。
「ユメさん、その杖……」
ドズルは最後まで言わなかった。そうなのだ。私がこの大巫女の杖を手放せば、ドズルの手に届きそうだった。だけども杖を手放せば、大巫女の力を発揮するどころか、ノゾミを助けられないかもしれない。
「私……」
かなり悩んだ。代々受け継いできた大巫女の杖をここで手放せば、マグマの池に落ちて跡形もなくなるのだから。
私は、目を伏せた。
「お願いしますっ」
私は杖を放り投げた。それから勢いよく片手を振り上げると、ドズルがタイミングよく掴んでくれて私はあっという間に引き上げられた。
「ありがとうございます……」
「ユメさんが助かって良かったよ」
私が礼を述べると、カラリとドズルは笑った。
「大丈夫? 二人とも」
そこに声を掛けてきたのはぼんじゅうるだ。激しい戦闘だったのか、頭に被っているサークレットが少しズレていたが、敵はもういないようで静けさを取り戻していた。
私はマグマの池をちらっと覗き見た。そこに落とした大巫女の杖は一欠片も見当たらない。私はここで、大巫女の末裔でも、王女でもなくなったのだ。大切なものを失ったというのに、どこか清々しい気持ちであった。
「私は大丈夫です。それより、ぼんじゅうる様」
「え?」
「これ、ズレてますよ?」
私はぼんじゅうるの前に来て腕を伸ばした。ぼんじゅうるは背が高くてちょっと届かなかったのだが、用件もよく分からず少し屈んでくれたので、私は彼のサークレットを直してあげた。
「あ、あー、ありがと〜」
そう言いながらはにかむぼんじゅうる。私はにこりと微笑んだ。
「こちらこそ、ありがとうございます」
このやり取りを他の三人は意味深そうに見守ってくれていたが何も言わず、おらふが奥の長テーブルへ視線を向けた。