第2章 私と妹
初級巫女修行は、志願して修行にやって来た国民たち誰もが通る最初にやることだった。大抵の人が成功する中、王女である私だけが達成出来ずにいた。
水浸しの床の上に服が濡れるのも気にせずに座り込み、目の前の水晶玉に祈りを捧ぐというだけの初級巫女修行。祈りが届くとこの水晶玉が光り輝き、巫女としての力を授けてくれるのだそうだ。
実際、水晶玉が光ったところなんて見たこともないからよくは分からないけど。
早く私を巫女にして欲しかった。
この初級試験をクリアしないと、いつまでも家族や周りから大巫女の末裔として認められていない感覚が拭えなかった。両親はこんな出来損ないの私でも酷いことはしてこなかったし言わなかったけど、もうあんな目で私を見てくるのだけは嫌だったから。
……でも、今日もダメだった。
神聖な存在であるべき巫女が、こんな焦った気持ちで祈ることはよくないのだろうが、私にはもう余裕がなかった。明日、十七歳になる私は、本来王家の皆は五つある巫女修行全てを経て大巫女の末裔であると証明出来る年齢でもあった。それなのに一つも達成出来ていない自分は、明日を最後にこの城を出て行こうと決めていたのだ。だからこうして水浸しの床に座り続けるのも、きっと明日で終わりだ。
そう、思っていた。
目の前の水晶玉がキラリと光った。
そう、こういうそれっぽいことは何度もあったのだ。けれどもそれはいつも、太陽の光やこの部屋にやって来た召使いのランタンの明かりの反射でそう見えているだけで終わっていた。きっと今日もそうだろう。半ば諦めと水晶玉を覗き込むと、そこには見たこともない程大きな樹の映像が映り込んでいて私は息を飲んだ。
それからゆっくりと辺りを見回してみるが、遮光されたカーテンはしっかりと締め切っているし、部屋に誰かが入って来たりもしていない。
もう一度水晶玉を覗き込むと、もうその大樹の映像は消えていた。だが、私の心の中は歓喜で溢れていた。お母様に報告しに行こう。これが初級巫女試験を達成した証なのか確かめに行こうと。
私は立ち上がり、着替えを済ませる。直後、廊下の方がざわつき始めた。
「ノゾミ王女が最終試験に失敗したぞ……!」
え……?
空耳かと思った。ノゾミが、最終巫女試験に失敗した……?