第15章 麓の小屋へ
聞いたところによると、おらふくんは山の麓の方で、大蜘蛛を調教しようとしていたらしい。
その途中、二匹の大蜘蛛が逃げ出し、追い掛けたところに、はぐれた馬を見掛け、すぐに手懐けて大蜘蛛を追い掛けていたみたいである。
「いやぁ、逃げた馬がおらふくんのとこにいて良かったよ」
とぼんじゅうるが言うと。
「ぼんさんが馬を乗り捨てなかったら逃げなかったはずですよ」
と冷ややかなおんりーの言葉が返ってくる。どうやらこの二人のやり取りはいつもこんな感じらしい。その横でおらふくんが明るく笑っていて、私もつい一緒になって笑っていると、ぼんじゅうるがそれに気づいてこう言った。
「あ、やっと笑った。やっぱユメちゃんも、笑ったらもっと可愛いよ」
「……え」
そんなに変な顔をしていただろうか。私は自分の顔を触ってみる。
「緊張していたんですよ。ユメさん、妹が目の前で攫われたし、ぼんさんは樹の中から出てくるし」
「あれは、ただの事故だって!」
とまたちょっとケンカみたいな会話を広げる二人から離れ、私の元に近付いてきたおらふくんが小声で訊ねてきた。
「妹さん、攫われたんですか?」
そう改めて聞かれると、苦しくなるものがあった。そうなのだ。私は目の前でエンドラを見ていて、ノゾミが捕まったことも見ていたのに、見ていることしか出来なかったのだ。私は俯くように頷いた。
「……はい、そうなんです」
だけど、おらふは違って明るく笑った。
「そうなんや。だったらみんなで助けような。みんながいれば、大丈夫やで」
おらふは馬に乗っている私を見上げる状態でそう言ったが、その言葉はまるで天からやって来た天使のようだった。大丈夫。私は彼の言葉で、本当に大丈夫だと思えるようになった。
「あ、もう少ししたら僕の小屋に着くで」とおらふは私たちより前へ駆け出した。「僕の蜘蛛が襲っちゃった詫びがあるんで、お茶くらい出しますよ」
「おー、ありがとう〜」
おんりーと一緒に馬に跨るぼんじゅうるがお礼を言う。今はお茶してる場合ではないのだろうが、私は色々と聞きたいこともあったので、一旦どこかで一息つきたかったのが本音だ。
私たちは、おらふの住居ともなっている木造の小さな小屋に、お邪魔することにした。