第13章 旅へ
「それで、ぼんさんはどうして樹の中にいたんですか?」
私たちは杖の修復を一旦諦め、大樹のある湖から離れて山を下り始めた。その道中、先頭を行く馬に跨るおんりーが、その後ろに一緒に乗っているぼんじゅうるにそう訊ねた。
「それがさ、俺もよく分からなくて」とぼんじゅうるは明るい口調で話続ける。「剣の能力が暴走したと思うんだよね。突然エンパが連続で出てきちゃって」
エンパ……? また聞いたことのない単語に、私は二人の会話を黙って聞くことにした。
「あー、実は俺のガンナーも時々暴走するんですよね」とおんりーはなんてことのないみたいな口ぶりで話した。「エンパはバグが多いのかもしれないですね」
バグ……? 馬具のことじゃなくて?
私はまた新たな単語により不安を感じた。私は城にいたというのに、あまりにもこの世界や勇者のことを知らな過ぎた。更には巫女についても知らないことが多いと思い知り、手網を握る手に思わず力が入る。それが次のトラブルを起こすとは知らずに……。
「ヒヒーン……!」
馬がいきなり前足を蹴り上げて嘶いた。どうしたの、と私が声を上げるより早く、馬は暴れて振り落とされそうになる。
「蜘蛛だっ」
おんりーが短く叫んだ。私があまりよく前を見ていなかったからだ。足元に見たこともない程大きな蜘蛛がいて、馬が驚いて飛び上がったらしい。
「お願い、落ち着いてっ」
馬の乗り方は城で散々練習してきた。私は振り落とされないように手網にしがみついて馬を宥める。その間におんりーが背中のガンナーとやらで大蜘蛛を仕留めたのを視界の端で捉えた。
馬を落ち着けたあと、ぼんじゅうるがどこに行ったか探してみる。辺りは深い森なので、一目では分からなかった。